認知症の親の不動産は売れる?現場で見てきた売却可否の判断基準を解説
この記事の監修者
代表取締役
福井 健太
宅地建物取引士。19歳で不動産業界に入り、営業として実務を重ねたのち、2009年に神戸都市開発を設立。兵庫県神戸市や関西を中心に全国で不動産買取を手がける。「不動産売買は一生に何度もないからこそ、不安を一つひとつ解消したい」との思いから、弁護士・司法書士・税理士等と連携したチーム体制を構築。相続不動産や共有名義など、権利関係が複雑な物件の売却も数多く手がける。
「親の家を売りたいのですが、最近ちょっと物忘れが多くて……これって大丈夫でしょうか」。
こうしたご相談は、たいてい売主ご本人からではなく、息子さんや娘さんからいただきます。実家の売却を考え始めたタイミングで、ふと不安になる方が多いようです。
神戸都市開発がまず最初にお聞きするのは、「認知症の診断を受けていますか」という一点です。この記事では、なぜその質問から始めるのか、そして「売れる」「グレー」「売れない」を、不動産会社である神戸都市開発が実際にどう見極めているのかを、できるだけ具体的にお話しします。
なぜ「意思能力」が売買の絶対条件なのか
不動産の売買契約は、法律行為です。法律行為を行うには、自分の行為の意味や結果を理解できる能力、いわゆる「意思能力」が必要とされています。認知症などによってこの意思能力がないと判断される状態で結ばれた契約は、無効(あるいは取り消しの対象)になります。
つまり、どれだけ書類上きれいに契約を整えても、あとになって「あの契約のとき、本人に意思能力がなかった」と主張されてしまえば、契約自体がひっくり返るリスクがあるということです。
契約時点で意思能力がまったくなかったと認められれば契約は無効となり、意思能力が不十分だった場合は取り消しの対象になり得ます。いずれにせよ、いったん結んだはずの売買が、あとから根底から覆ってしまう可能性があるということです。これが、認知症が心配される売主の不動産売買が、通常の取引よりもずっと慎重に進められる理由です。
不動産会社が本当に恐れているもの
ここは、あまり表立って語られない本音の部分です。不動産会社や司法書士が本当に恐れているのは、実は売主ご本人からのクレームではありません。あとになって、相続人のどなたか一人から「親を騙して売らせた」と言われることです。
売買が終わったあとに、疎遠だった別のご家族が出てきて、「あの契約は無効だ、認知症だったのに騙されて売らされた」と主張されるケースは、実際にあります。こうなると、不動産会社にとっても司法書士にとっても、大きなリスクを背負うことになります。
ですから、明らかにアウトなケースはもちろん、判断に迷うグレーなケースについても、多くの不動産会社や司法書士は関与を避け、成年後見制度の利用を勧めるのが基本的なスタンスです。
神戸都市開発も、大前提としてこのリスクを正面から受け止めています。ですから、提携の司法書士や神戸都市開発の顧問弁護士と密に連携を取りながら、案件ごとに一つひとつ丁寧に判断するようにしています。
【現場の判断基準】アウト・グレー・セーフの3段階

ここからは、実際に神戸都市開発がどのように見極めているかをお話しします。この見極めは、決して一人の勘で行っているものではありません。
不動産実務で20年以上のキャリアを持つ神戸都市開発の代表、相続・登記の実務に20年以上携わってきた提携の司法書士、そして数多くの家族間トラブルを見てきた顧問弁護士——それぞれの道のプロが持ち寄る経験があってこそ、初めて成立する判断だと思っています。
| 段階 | 判断のポイント |
|---|---|
| アウト | 認知症の診断がある。または診断がなくても、会話の中で明らかな整合性の欠如が見られる |
| グレー | 診断は受けていないが、加齢による判断能力の低下が疑われる。慎重な確認が必要 |
| セーフ | 単純な物忘れの範囲。自分の状況を正確に把握し、会話や生活に整合性がある |
アウトの場合はシンプルです
診断が下りているかどうかが、まず一番分かりやすい基準です。認知症と診断されている場合、症状の程度に関わらず、基本的には単独での売買は不可能と判断します。
診断の有無は、本人やご家族からの申告のほか、介護保険の認定調査資料からも読み取れます。特に、主治医意見書に記載されている「認知症高齢者の日常生活自立度」というランクは、大いに参考にしています。
診断を受けていない場合でも、神戸都市開発が直接お話しして、明らかに話の整合性が取れないと感じるケースがあります。たとえば、その物件をどう購入した(あるいは相続した)のか、経緯を説明できない。ご自身の住所や年齢が分からない。亡くなった配偶者について、その死を認識していない——こうした様子が見られる場合は、診断書の有無にかかわらず、意思能力に疑問があると判断し、単独での売買は進めません。
グレーが、いちばん判断が難しい
いちばん悩ましいのが、このグレーゾーンです。脳の老化は進んでいて、認知症に近づいてはいるものの、はっきりと診断が出るほどではない、という状態です。ここは、簡単に白黒つけられるものではありません。
グレーゾーンで、神戸都市開発が実際にやっていること
グレーな案件のとき、神戸都市開発は「外堀を固める」という表現をよく使います。一度の面談だけで判断せず、複数の角度から慎重に確認を重ねていくということです。
まず、売主ご本人へのヒアリングを念入りに行います。わざと日を空けたり、時間帯を変えたりして、複数回お会いします。会話の整合性がどの程度あるか、ご自身の状況をどこまで理解しているかを、毎回丁寧に確認します。
ご自宅に伺った際には、同じものを買いすぎていないかも一つのチェックポイントです。以前買ったこと自体を忘れて、同じ商品が何個も未開封で積まれている、というのはよく見られるサインです。
そして、相続人となる可能性のあるご家族全員の意向も確認します。これは、あとから「知らないうちに売られていた、騙されたのでは」という展開を避けるためです。売主が入院されている場合には、主治医や看護師さんに「認知症の兆候はありませんか」と直接お聞きすることもあります。
こうして外堀を固めながら、最終的に単独での売買が可能かどうかを判断していきます。
以前、こんなケースがありました。80代の売主さまで、診断こそ受けていないものの、ご家族から「最近少し様子がおかしい」というご相談をいただきました。日を変えて3回ほどお会いし、それぞれ別の話題でお話をうかがったところ、物件の取得経緯や、ご家族構成についてはしっかりと説明していただけました。
ただ、直近の出来事——たとえば前日の来客の話などは、うまく思い出せない場面が何度かありました。ご自宅を拝見すると、同じ日用品が複数まとめ買いされている様子もありました。
このケースでは、提携の司法書士とも相談したうえで、念のため主治医にも状況を確認しました。すると「実は近いうちに認知症の診断をする予定だ」というお話が聞けたのです。ここではっきりしました。診断を待つよりも、この時点で成年後見制度を利用する方向で進めることに決め、無事に手続きを完了させました。
時間はかかりましたが、あとになってご家族の誰かから疑義が出ることもなく、安心して完了できた案件です。グレーゾーンは、こうして一つひとつ手間をかけて確認していくしかないというのが、正直な実感です。
セーフの場合は、会話をすればだいたい分かります
一方で、単純な物忘れの範囲であれば、実際にお会いして会話をすればすぐに分かります。ご自身の状況をはっきりと把握されていますし、アポイントの日時もカレンダーにきちんと書き込まれていたりします。
正直に言うと、「最近物忘れが多くて」とおっしゃる方の多くは、年齢相応の範囲です。かくいう福井自身も、お風呂に入っていて「あれ、さっき頭を洗ったかな」と分からなくなったり、前の晩に何を食べたか思い出せなかったりすることがあります。物忘れそのものは、誰にでも起こり得る自然なことです。
神戸都市開発が見ているのは、物忘れの有無ではなく、ご自身の状況や周囲との関係を、筋道立てて理解できているかどうかという点です。
成年後見制度を使って売却する方法と、かかる時間

アウトやグレーと判断された場合、単独での売買はできませんが、それで売却そのものを諦める必要はありません。成年後見制度を利用すれば、売却の道は残されています。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方に代わって、家庭裁判所が選任した成年後見人が契約などの法律行為を行う(あるいは本人の同意のもとで補助する)制度です。ただし、手続きにはそれなりの時間がかかります。
| 工程 | 目安の期間 |
|---|---|
| 申立ての準備(診断書取得、書類収集) | 1〜2か月程度 |
| 家庭裁判所への申立てから後見人の選任まで | 2〜3か月程度 |
| 後見人選任後、売却手続き | 3〜6か月程度 |
| 合計の目安 | 5〜9か月程度 |
急いで売りたい事情がある場合、この期間はかなり重く感じられると思います。だからこそ、早めに専門家へ相談し、必要な手続きを前倒しで進めておくことが大切です。
「後見制度の申立てなんて、自分たちにできるだろうか」と不安に思われるかもしれませんが、その点はご安心ください。申立て書類の準備から家庭裁判所とのやり取りまで、神戸都市開発の顧問弁護士が対応します。ご家族に、慣れない裁判所手続きを一から調べていただく必要はありません。
居住用不動産は家庭裁判所の許可が必要
もう一つ、見落とされがちなポイントがあります。それは、売却する不動産が「居住用」の場合、成年後見人が売買契約を結ぶだけでは不十分で、あらかじめ家庭裁判所の許可を得る必要があるということです。
これは、住まいがご本人にとって重要な生活の基盤であるためです。裁判所の許可を得ずに居住用不動産の売買契約を結んだ場合、その契約は無効になってしまいます。せっかく後見人を立てて手続きを進めても、この許可を取り忘れれば、すべてが振り出しに戻ってしまいます。
神戸都市開発は、この点を提携の司法書士と一緒に、必ず事前に確認するようにしています。
認知症になる前にできること|家族信託という選択肢
ここまで、認知症になってしまってからの対応についてお話ししてきました。ですが、本当に望ましいのは、判断能力がしっかりしているうちに、将来に備えた手を打っておくことです。
その選択肢の一つが「家族信託」です。これは、ご本人が元気なうちに、不動産などの財産の管理・処分を、信頼できるご家族に託しておく仕組みです。あらかじめ信託契約を結んでおけば、将来ご本人の判断能力が低下しても、託されたご家族の判断で不動産の売却などを進めることができます。成年後見制度のように家庭裁判所の許可を都度得る必要がなく、柔軟に対応できるのが特徴です。
「まだうちは大丈夫」と思っているタイミングこそ、実は動きどきです。判断能力がはっきりしているうちにしか、この選択肢は使えません。
実際に、神戸都市開発がグレーゾーンのご相談をお受けする中で、「もっと早く家族信託を検討していれば、ここまで時間もかからなかったのに」と感じるケースは少なくありません。信託契約自体は司法書士や弁護士と一緒に組み立てていくものなので、まずは「うちの場合はどうか」を専門家に確認するところから始めていただければと思います。
【神戸・関西で認知症がらみの不動産にお困りなら】
「親がグレーゾーンかもしれない」「診断は受けていないけれど、少し心配」——そんな段階でのご相談も、もちろん歓迎します。神戸都市開発は提携の司法書士、そして顧問弁護士と連携しながら、一件ずつ丁寧に状況を確認し、成年後見制度の利用が必要かどうか、あるいは今のうちに家族信託を検討すべきかを、一緒に整理していきます。
判断を誤ると、契約が無効になったり、ご家族間のトラブルに発展したりするリスクがあります。少しでも不安があれば、売買を進める前に、まずご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親が認知症と診断されていますが、本人はまだ意思疎通ができます。それでも売却できませんか?
診断がある場合、症状の程度にかかわらず、単独での売買は基本的にお受けできません。あとから契約の有効性が争われるリスクが大きいためです。成年後見制度の利用をご検討ください。
Q2. 診断は受けていませんが、家族としては認知症を疑っています。
診断の有無だけでなく、実際のヒアリングを通じて判断します。会話の整合性、生活の様子などを複数回確認したうえで、単独売買が可能かどうかを見極めます。
Q3. 成年後見制度を使うと、必ず時間がかかりますか?
申立ての準備から売却完了まで、おおむね5〜9か月程度が目安です。急ぎの事情がある場合は、できるだけ早く専門家にご相談いただくことをおすすめします。
Q4. 家族信託は、認知症と診断されたあとでも利用できますか?
原則として、契約時にご本人の意思能力があることが前提となるため、診断後は難しくなります。判断能力がしっかりしているうちに検討することが重要です。
Q5. 他の相続人にあとから文句を言われないか心配です。
神戸都市開発も同じリスクを想定して動いています。売主ご本人だけでなく、ご家族全員の意向を確認しながら進めることで、あとになってのトラブルを防ぐようにしています。
Q6. グレーゾーンの判断に、どのくらい時間がかかりますか?
案件によって異なりますが、複数回のヒアリングや主治医への確認などを含めると、1〜2か月程度かかることが多いです。急いでいる場合こそ、早めのご相談をおすすめします。
まとめ|迷ったら、売買を進める前に相談してほしい
認知症の診断がある場合は、基本的に単独での売買はできません。診断がなくても、会話の整合性に明らかな問題があれば、神戸都市開発は同じように判断します。そして、いちばん難しいのがグレーゾーンです。
神戸都市開発は、複数回のヒアリング、生活状況の確認、ご家族全員の意向確認、主治医や看護師への聞き取りなど、外堀を固めながら、一件ずつ慎重に見極めています。
不動産会社が本当に恐れているのは、あとになって「騙されて売らされた」と言われることです。だからこそ、少しでもグレーだと感じたときは、無理に契約を進めず、成年後見制度や家族信託といった正しい手順を踏むことをおすすめします。
「うちの親、大丈夫かな」と少しでも思ったら、契約を進める前に、まずご相談ください。
この記事は、神戸都市開発株式会社(Team Next)代表取締役・福井健太が、20年以上の不動産実務の経験をもとに執筆・監修しています。個別のケースにおける意思能力の有無や制度の適用可否は、最終的に医師・司法書士・弁護士等の専門家の判断によります。この記事は一般的な考え方の目安としてお読みください。

